僕の兄さんの部屋には、黒い ネコ が居る。

ネコ と言っても、四足で歩く 猫 ではなく、

 ”寝子” だ。

(まぁ、愛玩用であることに変わりは無いが)


成人になると、一人宛がわれる 寝子 は、兄さんの所に来てから もう2年になる。

しなやかな四肢に、透通る白い肌。

それに相反する 黒曜石の瞳に、長い絹の黒髪。

ここでは珍しい 東洋の女性だそうだ。

社交界に連れて行けば、その場全ての人間の目を引く。

彼女たち 寝子 は、皆 共通して あまり表情を表に出さず、全く口を開かない。

僕は、その意味を最近ようやく知った。

それは、自分の主人の情報を外部に洩らさせない様

表情を殺し、声を失くしたのだそうだ。

しかし 僕は、兄さんの 寝子 が、本当は凄く素敵に笑うのを知っている。

兄さんは、知っているのだろうか。

僕は、彼女に会うために 夜の裏庭に出た。

主人が居ない昼間は 眠って過ごす 彼女たちの活動時間は、夜なのだ。

今日は、兄さんも仕事で居ない。

それなら きっと、裏庭で会えるはずだ。


ほら、やっぱり。

闇に溶ける 黒の彼女は、周りの全てを自分のものにする。

月すらも、きっと その光を彼女に差し出すだろう。


「こんばんは」


まだまだ子供な僕が、自分の 寝子 を貰うまでは5年ある。

でも、僕は そんなもの要らない。

何のために 要るのかも、よく分からないのに。


「ねぇ。兄さんの所じゃなく、僕の側に居てくれたら良いのに。」


棘を綺麗に取り除いた薔薇を差し出すと、

彼女は それを受け取って、困った様に微笑んだ。





 (070823 愛玩としてではなく、ちゃんと人間として)


 +under the rose.: こっそり、内密に。