深夜1時。

帰宅した彼女は妙に不機嫌で、出迎えたオレを避けてソファーに寝そべった。

何だよ。折角待っていたのに。

彼女の帰りを待ちわびていたオレは、疲れているであろうその人の為
お風呂を沸かしたり、昼に作ったデザートを冷やしておいたり…

ねぇ、どうしたの?こっち向いてよ。

「あいつ…私の事何も知らないくせに。アンタが思ってるより、ずっと良い女なんだから」

小さく呟いた独り言は、側にいたオレの耳にも届いた。
あぁ、そうだね。キミより素敵な女の人は居ないよ。
どうやらご機嫌ナナメの理由は、付き合ってたヤツに振られたからみたいだ。

どうしてよ、オレが居るじゃない。

「それは、当り前。キミは居なくならない。そうでしょう?」

そうだね、当り前。
アナタがオレを捨てるまで。

「いつか居なくなる事を分かっているから、必死に繋ぎ止めようとするのよ。」

女に対する幻想を壊さない様に、可愛く振る舞ってね。

そう言って笑う アナタの顔が一番好きなのに。
彼女の言う 他所行きの顔は、知らない人みたいで好きじゃない。

(だけど、嫌いでもない)

「昨日買ったミュール、折角 無理して履いて行ったのに。」

本当だね、怪我してる。
痛くても、我慢して可愛い靴を履くのが女なんだ。と、アナタは言っていたけれど
オレには そんな事 理解出来ない。
だって、アナタの綺麗な白い足に傷が付く方が 余程重大なんだ。

後で、手当してあげるね。
その前にお風呂に入ろうよ。
アナタの好きな アロマオイルを入れておいたんだ。
オレが全部 洗ってあげる。

その後は、デザートを。
アナタみたいに艶やかで、綺麗なイチゴが たくさん手に入ったからゼリーにしてみたんだ。
宝石の様にキラキラのそれを、スプーンで掬って 食べさせてあげる。

喜んでくれるかな。
美味しいって言ってくれる?
機嫌直して、笑って見せて。


アナタには、大切なものが たくさんあるけれど、

オレには アナタだけ。



 (070817 最後に、きっとご褒美を。)


  +トランキライザー: 神経の興奮・緊張状態を静める薬。
             マイナートランキライザーとメジャートランキライザーの2種類に分かれ、
                どちらも、精神病患者に投薬される事が多い。