「なぁ、何でオレたち こんな所にいるんだろう。」


「何でって、そりゃあ 学生だからでしょ。」


2時間目の授業をサボって、僕たちが居るこの場所は 立入禁止の屋上で

僕たち二人だけの秘密の場所だ。

と言っても、この場所の存在自体は誰もが知っているが

こんな所に来るのは きっと僕たちだけ。だから、2人だけの秘密。

今頃 教室では、厳しい事で有名な先生が行う 英語の授業真っ最中だろう。


「今更だけど、良いのかよ。優等生のオマエが、こんな所に居て」


しかも、授業中。

寝転んで、視線を空に向けたまま そう言った彼は、校内でも有名な問題児。

僕と彼の共通点は、ただ一つ。


つまらない、という事実。


何が?と問われれば、主に学校が と答える。

しかし、それ以外にも下らない事はたくさんあるし、全てが詰まらない。

もう、世界に飽きてしまった。

結局は、みんな同じなのだ。

人も、国も。

個性がどうとか言っているけれど、所詮 考えている事も、やっている事も同じ

それに気付いた時、世界は つまらないモノへと変化してしまった

でも、最近やっと見付けた面白いモノ、それが彼だ。

問題児だ、何て言われているけれど そうじゃない

学校という 小さい枠に 彼が当て嵌まらないだけだ

彼はいつも、他人とは違う世界を見ている。

彼が可笑しいのではない。

人間は、自分と違うものを受け入れる事が出来ない生き物だ。

それは仕方が無い、そういう性質なのだから

それが無いのなら、イジメ何てとっくの昔に無くなっているだろう。


「ねぇ、僕たちは 学生だから ここに居なきゃいけない っていう考え、間違ってる?」


僕がこんな所に居て良いのか、という問いには 軽く笑って受け流し、

少し前の会話を掘り返した。


「いや?間違って無いと思う。逆に言えば、学生じゃなきゃ 学校に行く必要無いもんな」

「僕たちが学生である必要だって、本当は無いんだよね」


そう、嫌なら辞めれば良い。

でも、そうしないのは何故だろう。

多くの人は、そうしたくても出来ないのだ。


「勉強だって、そんなに大切なものじゃない。」


「優等生のオマエが言うなよ」


「出来ないよりは良いと思っただけ」


だから、勉強もしてみたんだ。

良い成績を取ろうと思って したんじゃない。

成績なんて、ただ紙の上のもので それ以上でも、それ以下でもない。

ただ、親や先生は ソレを大いに大事にしているけれど。

勉強して、良い成績を取って、先生に褒められて、それでお終い。

その後 何があるか。なんて、考えてみたけれど 結局何も無い。

あるとすれば、大学の進学率が上がるくらいか。

下らない。

でも、他の人間には重要な事なのだ。きっと。


「大学は?行かないの?」


あぁ、詰まらない質問をしてしまった。


「行ければ行くよ。何だかんだ言って、気楽な自由は学生の特権だから。でも、勉強出来ねぇしなぁ」


「出来ないんじゃないよ。やらないだけ!」


本当に そう思う。

彼は頭が良い。

そうじゃなきゃ、自由は学生の特権だ 何て発想は 出て来ないだろう。

学生は、学校のお客だ。

何かを やっても、ある程度は学校が護ってくれるし、責任も取ってくれる。

問題のある生徒にだって、それ程 厳しくは言えずに 結局は許されてしまうのも

こっちが、お金を払っているからだ。

最近は、生徒には学校に来て戴いている と考えるのが普通らしい。

教師もサービス業なのだ。

学生は、教育というサービスと、学生という名の下で時間を買っている。

お金を出している分、大人と比べて自由が多い。


「やりたくないんだよ、だから出来ないのー。
 それに、行くとしても有名大学に行くつもりは無いから」


「そうなんだ?」


「大学名なんて ただのお飾り。ブランドみたいなもんだろ。
 大事なのは、どこの大学に行ったか じゃなくて、何を勉強したか。違う?」


あぁ、そうか。


「ううん、正しいよ。僕も、そう思う。
 有名大学に行く事が目的になっているんじゃあ、意味がないもの」


やっぱり面白いね、君は。

発想も、考え方も、誰より素敵。


「あ、チャイムだ。」


彼の言葉と考えの余韻は、2時間目終了のチャイムに掻き消された。


「2時間目、何だっけ」


「古典だよ、確か小テストの予定」


「あぁ〜…じゃあ、もう一時間」


「そうだね、もう一時間」


彼は、何を見ているんだろう。

きっと、空では無く その向こう側だ。

君の事、もっと知りたいな。


僕は、次のチャイムが鳴るまで 寝転ぶ彼の横顔を観察する事にした。






 (070827 もっと見せてよ、君の世界を。)


 +屋上世界: 屋上は、2人だけの世界である事の意味を込めて。